医療法人 社団 税田会




せつ・よう・トビヒ

                                      水前寺皮フ科医院 井上雄二



毛穴で起こった細菌感染症は、大きさによって毛包炎→癤(せつ)→癤腫症(せつしゅしょう)

→癰(よう)と定義されます。つまり、毛穴1個の化膿;癰、毛穴数個の化膿;癰腫症、鶏卵大

から手掌大に拡大した化膿;癰です。原因菌で最も多いのは黄色ブドウ球菌で、表皮ブドウ球菌、

溶血レンサ球菌などがこれに次ぎます。ちなみに、慣用語の面疔(めんちょう、めんちょ)は、

癰の状態に最も合致する言葉です。

一方、トビヒは皮膚表面の細菌感染症が起こった時に、局面を触った手で正常な部位を触り、細

菌感染症を拡大させた状態です。子供の病気と考えがちですが、アトピー性皮膚炎や慢性湿疹の

患者で、細菌感染症を合併した場合には成人でもトビヒになります。原因菌は、せつ・ようと同

様に黄色ブドウ球菌が最も多いとされます。



(ア)症状;毛孔一致性の紅斑・丘疹(毛孔炎)を初発とし、次第に発赤、熱感、腫脹を伴い、中

    心に膿点や痂皮を生じます(癤)。それが、複数の毛孔の範囲に拡大し(癤腫症)、鶏卵大

    から手掌大の範囲まで拡大して表面壊死や膿汁排出、痂皮の付着などを伴う(癰)ようにな

    ります。癤や癰では、全身性の発熱を伴うこともあります。



  

癤:中心に膿点を伴った紅斑  癰:背部の癰。表面は痂皮を付着し、膿点を多数認め、

                             一部には膿汁の排出を伴う。



 

トビヒ:目周囲に紅斑およびびらん面を認める。



(イ)検査所見;細菌培養を行い、原因菌を同定することによって診断が確定されます。さらに、

    抗菌薬に対する感受性試験をもとに治療法が決定されます。血液検査では白血球数上昇、核

    の左方移動、CRP上昇などがみられます。ただし、筋膜や筋肉へ炎症が及んだ場合にはCPKや

    アルドラーゼなど筋原性酵素の上昇がみられることもあります。その場合にはCTやMRIなどの

    画像検査にて炎症の範囲を確認する必要があります。



2.治療上の一般的注意&禁忌

    注意;近年、抗菌薬適正使用の厳密化によって院内感染におけるMRSAなどの耐性菌感染は

    減少傾向にありますが(1)、耐性表皮ブドウ球菌(MRSE)は増加傾向にあります。ただし、

    市中感染症の詳細については上明です。症状が軽快しないにも関わらず、漫然と同じ抗菌薬

    を内朊し続けるのは避けるべきです。また、癤、癰、トビヒは抗菌薬内朊による治療が原則

    です。塗り薬だけで完治することは稀であり、耐性菌を作る機会を増やすことになります。



3.典型的治療:癤、癰、トビヒの治療は、基本的に感受性のある抗菌薬を投与することです。

    しかしながら、菌の同定および感受性試験には数日間を要します。そのため、当初はブドウ

    球菌を目標として、抗菌スペクトルの広い薬剤を投与します。



   (ア)軽度;排膿や膿点を伴わない毛孔1個の炎症である癤に対しては、抗菌薬の投与のみで治

       療が可能です。ただし、膿点などをみとめる場合には、切開排膿を加えることで、より短

       期間での完治が期待できます。

   (イ)中等度;排膿を伴った?や?腫症に対しては積極的に切開・排膿を加えるべきです。

   (ウ)重症;局面状に炎症が拡大した癰については、表面の痂皮や膿汁を積極的にデブリメンす

       べきであり、悪臭を伴っている場合には膿汁を洗浄します。特に、嫌気性菌感染症を疑う

       場合(腐敗臭や握雪感を触れるとき)には早期に切開・排膿やデブリメンを加えて、洗浄

       する必要があります。



4.偶発症・合併症への対応

    癤や癰を診断した場合には、糖尿病や悪性腫瘊などの合併症を確認する必要があります。



5.非典型例への対応

    癤や癰は、炎症性粉瘤との鑑別が必要であり、そのためには、病変内の開口部の存在を確認

    したり、エコー検査が有用です。さらに、嫌気性菌感染症を合併した場合には急激に増悪す

    ることがあるため、創部の臭いを嗅ぐことも大切です。



 

炎症性粉瘤:表面にPin hole様の瘻孔が認められる。



6.高齢者への対応

    高齢者の癤や癰は、その合併症のために急速に重篤化する可能性があり、糖尿病やリウマチ

    などの免疫上全状態にある患者の場合には、特に注意が必要です。



7.ケアおよび在宅でのポイント

    患者によっては癤や癰を繰り返す場合がある。普段からスキンケアを心がけて保清と保湿に

    努めるべきです。皮膚の消毒は皮膚表面の常在菌フローラを乱すもとになるので行うべきで

    はない。また、抗菌薬含有軟膏などの使用は耐性菌出現の危険因子となりうるので控えるべ

    きです。



8.文献・参考資料

  (1)厚生労働省院内換算対策サーベイランス事業(http://www.nih-janis.jp/report/

   zen.html)、全入院患者部門JANIS(一般向け)期報・年報




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