医療法人 社団 税田会



皮膚の良性腫瘍
                                              水前寺皮フ科医院 井上雄二

皮膚には様々な腫瘍(しゅよう)が発生します。そのほとんどは良性腫瘍ですが、
まれに悪性腫瘍(別項)もあります。代表的な皮膚良性腫瘍は以下の通りです。
その診断確定には組織検査(皮膚生検検査)が必要になりますが、ダーモスコピー
(別項目)検査にてほとんどの腫瘍が診断できます。

皮膚の良性腫瘍

表皮系腫瘍
@脂漏性角化症、稗粒腫(顔面によくみられる皮膚腫瘍 参照)

毛包系腫瘍
毛包腫、多発性丘疹状毛包上皮腫、A石灰化上皮腫瘍、毛孔腫、Bケラトアカントーマ、
外毛根鞘腫

汗腺系腫瘍
Cエクリン汗孔腫、汗管腫(顔面によくみられる皮膚腫瘍 参照)、皮膚混合腫瘍

脂腺系腫瘍
脂腺腺腫、D老人性脂腺増殖症

神経系腫瘍
神経鞘腫、外傷性神経腫、E神経線維腫

間葉系腫瘍
F皮膚線維腫、若年性黄色肉芽腫、G軟性線維腫HケロイドI肥厚性瘢痕、皮膚平滑筋腫、J脂肪腫のう腫
K粉瘤、真皮嚢腫、粘液嚢腫(別項参照)

血管腫(別項参照)
イチゴ状血管腫、海綿状血管腫、サーモンパッチ、単純性血管腫、血管拡張性肉芽腫


@脂漏性角化症(しろうせいかっかしょう、別名:老人性疣贅、年寄イボ)

病因:加齢による皮膚の老化。
臨床:全身にできるが、顔や首に最もでき易い。

診断:ほとんどは視診だけで診断可能ですが、ダーモスコピーを使うことで正診率
は98%以上とされます。

治療:
@放置:気にならなければ、とる必要はありません。ただし、年齢とともに拡大、
  増加する可能性が高い。
A冷凍凝固:液体窒素やドライアイスを用いて腫瘍を凍らせる治療法。2週間に1度の
  冷凍凝固を2〜3回繰り返すと脱落する。ただし、再発する可能性もあります。液体
  窒素やドライアイスによって火傷させるために、痛みがあります。
B手術:完全に治す方法。
  →局所麻酔(注射の麻酔)して腫瘍を切除し、皮膚を縫い合わせます。
 大きさにもよりますが、ほとんどは15分程度の手術でとることができます。
 1週間〜10日で抜糸ができます。

予防:特にないが、肥満や日光暴露でおこりやすいと言われています。


追)スキンタグ(Skin tag)、G軟性線維腫
首や脇に米粒大の腫瘤が多発することがある。これも一種の脂漏性角化症です。

頸部のスキンタグ

病因:加齢による皮膚の老化。肥満傾向の人に起こりやすい。

治療:
1.放置:気にならない場合には特に治療の必要はありません。
2.クーパー(ハサミ)による切除:切除部が出血します。また切除するときに痛み
  があります。
3.冷凍凝固:液体窒素にて凍らせると2〜3週間で脱落します。


A石灰化上皮腫(せっかいかじょうひしゅ)

病因:不明です。毛包から発生したと考えられる皮膚の良性腫瘍です。

臨床:全身にできますが、小児では顔面、大人では四肢にできやすいのが特徴です。
多くは長径2cm程度までの皮下腫瘤ですが、一部は皮膚表面に盛り上がっています。
急激に拡大するもの(水疱型)や、こぶし大を超えるようなものもあります。虫刺
されの跡形と勘違いされる場合が多いようです。 

診断:視診と触診で診断が可能ですが、確定診断には病理組織検査が必要です。
ただし、エコー検査を行うと特徴的な所見がみられます。
  
鑑別疾患:粉瘤や脂肪腫との鑑別が必要ですが、ほとんどの場合、エコー検査にて
鑑別が可能です。

治療:自然消退することはなく、小さい時期に手術するべき疾患です。腫瘍部分だ
けを切除するだけでいいですが、取り残しがあった場合には再発する可能性があり
ます。

予防:特にありません。ただし、触ることで細菌感染症を起こすことがあります。
なるべく触らないように気を付けましょう。


Bケラトアカントーマ

病因:病因は特にありません。

臨床:急速に拡大する皮膚腫瘍で、表面は落屑や痂疲を付着することが多いドーム
状腫瘤です。高齢者の顔面や手背に好発する傾向がありますが、臨床的には有棘細
胞がん(SCC)と区別がつきません。SCCは皮膚がんであり、増大し続けますが、ケ
ラトアカントーマは長径2cm程度で増大が止まり、その後自然消退することがあ
ります。
 
 
診断:視診にて診断しますが、ダーモスコピーにて表面の角質や血管像を観察すると
特徴的な所見が認められます。しかしながら、臨床的にも病理的にもSCCとの厳密な
鑑別は困難です。

治療:自然消退することがある腫瘍であり、経過観察する場合もありますが、基本的
にはSCCを前提とした手術を行うべき疾患です。


Cエクリン汗孔腫(えくりんかんこうしゅ)

汗腺由来の良性腫瘍であり、比較的稀ですが、黒色調を呈するときにはメラノーマと
の鑑別が必要になります。
  


D老人性脂腺増殖症(ろうじんせいしせんぞうしょくしょう)

高齢者の顔面に多く認められる。皮脂(皮膚の油)を作る皮脂腺の増殖である。

診断:ダーモスコピーにて特徴的な血管像(crown vessels)を認めることで診断は
容易です。

治療:基本的には治療の必要はない。液体窒素にて冷凍凝固することで薄くなること
がありますが、完全には消失しません。
  


E神経線維腫(しんけいせんいしゅ)

皮膚に存在する神経線維のシュワン細胞より起こった腫瘍。一個〜数個の場合には加
齢によっておこる皮膚の変化の可能性が高い。
   
ただし、全身に多発するような場合には多発性神経線維腫症(von Recklinghausen病、
NF-1)を疑う必要がある。
   
多発性神経線維腫症(NF-1)


F皮膚線維腫(ひふせんいしゅ)
      
腹部の皮膚線維腫           同ダーモスコピー像

病因:特になし。

臨床:皮膚の表面は褐色を呈する。つまむと圧痛(いたみ)があるのが特徴。

診断:ダーモスコピー検査にて特徴的な所見がみられます(dotted vessels, pigment
 network, central white patch)。

治療:大きくならないのであれば放置でいいが、急激に拡大したり、長径が1cmを超
えるようなものは注意が必要。治療は、基本的には手術にて切除します。


G軟性線維腫


HIケロイドと肥厚性瘢痕

【病因】怪我した後に、キズの範囲が盛り上がった腫瘤が肥厚性瘢痕であり、キズの
範囲を超えて盛り上がったり、特にキズもないのに盛り上がった腫瘤がケロイドである。
従って、肥厚性瘢痕は誰にでも発生するが、ケロイドはケロイド体質のヒトに発生する。
人種さが大きく、アフリカ系のヒトは基本的にケロイド体質であり、ヨーロッパ系には
ほとんどケロイド体質のヒトはいない。日本人では、ケロイド体質のヒトは10%程度と
言われています。

【臨床】皮膚から盛り上がった腫瘤であり、キズの範囲に留まるものを肥厚性瘢痕、キ
ズの範囲を超えて盛り上がったものがケロイドです。好発部位は、前胸部と肩ですが、
最近はピアスをする人に起こる。ピアス肉下腫→ケロイドの患者さんが増えています。
  

 
【診断】視診で診断します。

【治療】
@副腎皮質ホルモン外用
 ステロイド外用はケロイドの痒みに対しては有効ですが、盛り上がりに対してはあまり
 効果的ではありません。ただし、ステロイド含有テープ剤を貼付すると消退する場合も
 あります。
A副腎皮質ホルモン注射
 ケロイド部分にステロイド懸濁液を局所注射することでケロイドの縮小効果が認められ
 ます。
B圧迫療法
 ケロイド予防に対しては効果的です。テープやシリコン膜(シカケア)をケロイドの部
 分や傷の部分に貼付して機械的に圧迫を加えることで予防します。ただし、外傷後6カ月
 〜12カ月の治療が必要です。
Cトラニラスト内服
 ケロイド予防に効果が認められる唯一の内服薬です。
D手術
 キズの方向を変える形成術などを行うことはありますが、手術することで反対にケロイ
 ドを拡大させることもあります。
E放射線療法、レーザー療法


J脂肪腫(しぼうしゅ)

全身どこにでもできる。脂肪細胞の腫大であり、大部分は良性ですが、稀に悪性の脂肪
肉腫もある。
 
診断:視診と触診で、ほとんどが診断可能ですが、エコー検査やCT検査が診断に有用な
ことがある。粉瘤との鑑別が大切です。

治療:増大しない、生活に邪魔にならない限りは治療の必要はない。ただし、急激に大
きくなる場合や硬くなる場合には悪性(脂肪肉腫)も否定できないので、手術を考える
べきである。手拳大までの大きさであれば、局所麻酔での日帰り手術が可能です。


K粉瘤

【病因】:不明です。皮膚表面の部分(表皮)が真皮内で増殖して嚢腫(ふくろ)を作
ります。内部に角化物質(皮膚の老廃物)が溜まっています。

【臨床】:全身にできますが、顔面と背中にでき易い。母指頭大の物が多いが、時には
ソフトボール大くらいになることもあります。また、人によっては多発することがあり
ます。

【診断】:ほとんどの粉瘤は視診だけで診断できますが、エコー検査を行うとより確実
になります。
   
【治療】:(1)放置:気にならなければ、切除する必要はありません。ただし、徐々
に大きくなることが多く、細菌感染がおこると膿が出て、痛みを伴います。
(2)手術:完全に治す方法です。局所麻酔(注射の麻酔)して腫瘍を切除します。腫瘤
の大きさにもよりますが、10〜15分程度の手術です(要予約)。
(3)ただし、化膿した状態では手術はできません。


  
【感染性(炎症性)粉瘤】
内部の角化物質に細菌が感染して化膿した状態です。その場合には痛みを生じますし、
炎症が拡大した場合には発熱することもあります。化膿した感染性粉瘤は1回の手術では
治せないことが多く、その場合には腫瘍部分に切開を入れて、内部の角化物質を出し、
化膿が落ち着いた後で腫瘍を切除するようにします。


L指趾粘液嚢腫(ねんえきのうしゅ)、ガングリオン
 
臨床および病因:指趾の背側に生じる長径10mm程度までの皮下腫瘤。内部に粘液
(ムチン)を容れるため、指趾関節より生じた関節ヘルニアとする説と異所性に滑液
膜が発生したという説があります。指趾背側以外に発生し、より大型のガングリオン
については、周囲の関節腔より生じた関節ヘルニアの場合がほとんどです。痛みや痒
みは無く、外傷に続発することがあります。
  

   
診断:ほとんどは視診で診断可能ですが、注射針で穿刺すると黄色がかった粘液
(ムチン)を確認することができます。
  
治療:	
@放置:気にならなければ、切除する必要はありません。
A内容液の穿刺吸引および圧迫:内部の粘液を注射器で吸引し、その後局所性に圧迫
 する。これを繰り返すことで嚢腫部分が周囲と癒着して治癒する可能性があります。
B冷凍凝固:液体窒素を用いて腫瘍を凍らせる治療法です。2週間に1度の冷凍凝固を
 2〜3回繰り返すと腫瘤が脱落する可能性があります。ただし、後日、再発する場合も
 あります。
C手術:完全に治す方法ですが、指趾の背側に生じるために、スペースが無く、縫い
 合わせることが困難で、植皮や皮弁形成を必要とする場合があります。
  




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